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​企画者だより

『新しい建築の楽しさ』の企画を担当してきた中崎隆司が月1回、

建築や建築家についての想いを投稿します

今回は木造住宅がテーマ

2025/3/3

中崎 隆司

(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

今回は木造住宅がテーマです。

 

住宅、木造、人口移動から考えたいと思います。

 

まずは住宅について。

 

世帯数は増加していますが、少子高齢化が進み、若者だけではなく高齢者やミドル世代の単身世帯が増えています。2040年に単身世帯が全世帯の約40%に達するという推計もあります。

 

世帯の形態が変われば住宅に求められることも変化していくことでしょう。

 

新設住宅着工戸数は1970年代前半の約186万戸がピークであり、2024年は半分以下の約79万戸に減少しています。今後も人口減と共に減少するでしょう。

 

総務省の2023年の住宅・土地統計調査によると全国の空き家は約900万戸。過去最多であり、総住宅数に占める割合も、13.8%で最高を更新しています。約900万戸のうち、約386万戸は使用目的などがない空き家です。

 

65歳以上の持ち家率が8割を超えているという状況から今後も空き家が増えることでしょう。

 

次に木造についてです。

 

日本の国土面積は約3,780haであり、そのうちの約66%が森林です。40年以上増減はほとんどありませんが、森林資源量は約3倍に増えているそうです。そのような状況から林業の活性化、国産木材の利用促進、森林資源の循環の試みが行われています。

 

「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」などにより建築の木造化・木質化の動きが始まり、これまで木造の割合が少なかった中・大規模の非住宅の木造化・木質化の事例が話題になっています。

 

国土交通省の統計によると日本の既存の建築物の延べ床面積は約77億2千万㎡であり、そのうち住宅は約74.3%であり、非住宅は約25.7%となります。構造別の割合では住宅は約68.4%が木造であり、法人などの非住宅建築物は約93.4%が非木造です。このような状況から中・大規模の非住宅の木造化・木質化が注目されていますが、住宅も4階建て以上の中高層住宅の木造はまだ非常に少ない状況です。

 

3つ目の人口移動について。

 

大都市圏への人口の集中が続き、地方では人口の流出が続いています。

 

総務省の資料によると過疎地域の人口は全国の9.3%ですが、市町村数では半数近く、 面積では国土の約6割を占めています。

 

1970年に過疎地域対策緊急措置法が制定されて以降、過疎地域振興特別措置法、過疎地域 活性化特別措置法、過疎地域自立促進特別措置法と続き、2021年には持続的発展法が制定されています。

 

また24年11月、二地域居住の促進を通して、地方への人の流入を促す改正広域的地域活性化基盤整備法が施行されています。

 

地方への移住・定住、二拠点居住の課題は就業、住宅の確保、地域コミュニティでの人間関係です。

 

移住・定住を検討している人が地域の空き家情報を見て、住みたいと思うでしょうか。

 

住んでみたいという新しい住宅像が必要なのではないでしょうか。

 

地域の既存の産業を基本に新しい事業をつくり、その働く環境を整えていく。そしてその地域のなかに住み続けたいと思うような住宅を整備する。

 

ひとつの世帯で地域コミュニティに入って行くのはハードルが高いと思います。複数の移住者世帯が入居できるとともに、地域の世帯も一定の割合で入居でき、集まって住み意味を実感できる共同住宅があったらいいのではないでしょうか。そのような共同住宅の木造、木質化の提案をしたいと考えています。

 

まだまだ認識不足だと考えますが、2025年1月から柔軟な思考と感性を持ちながら、適地適木の産地を尊重し、地域の特性を生かした移住・定住促進木造共同住宅と二拠点居住木質化共同住宅の提案の検討を始めています。

自己紹介と
最近の設計者選定についての感想

2024/12/2

中崎 隆司

(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

この企画者だよりを企画者の自己紹介と最近の設計者選定についての感想から始めたいと思います。

私は建築ジャーナリストと生活環境プロデューサーのふたつの肩書を持っています。これから始まるだろうというものごとに興味があります。

 

私が大学で学んだのは社会学であり、建築の門外漢です。その門外漢の立場から建築家や建築家が設計した建築物などを取材し、新聞社系の週刊誌や建築専門雑誌、カルチャー情報誌などに寄稿していました。

新聞社系の週刊誌に寄稿した記事のテーマは設計者選定や公共建築の運営・管理、阪神淡路大震災後の住宅再建、楕円やルーバーなど建築のデザインの流行についてなどでした。建築専門雑誌の記事は主に完成した建築の設計や構法などについてです。カルチャー情報誌には展覧会の批評なども寄稿しました。

町立美術館の設計者選定のコーディネート、ある県が市町村の公共施設や公園の改修、照明計画などに対して建築家やランドスケープアーキテクトなどの専門家をアドバイザーとして派遣・支援する事業のコーディネート、また別のある県の依頼で県内の企業の優れた技術を建築家に伝えるサポート、温泉街の活性化のワークショップなどを行ったことがあります。プロデュースしたアンテナショップの開店後の取扱商品のリサーチに関わったこともあります。

 

現在は展覧会やフォーラム、商品開発などのコーディネートやプロデュースなどが仕事の中心になっており、物流や建築の床の意匠と意味をテーマにしたコーディネートを継続しています。新しく始めているコーディネートは建築と農業、木造、ワークプレイスなどがテーマです。

 

次に最近の設計者選定についてお伝えします。

 

最近の公共建築の設計者選定はプロポーザルが企画コンペのようになり、建築家が疲弊しているように感じています。設計提案書の記載内容をプロポーザルにふさわしいものにし、さらに審査方法をもっと住民に理解しやすいものにする工夫が必要であると考えています。例えば設計者選定の審査員は依頼者、運営者、利用者で構成します。建築関係者は審査員ではなく、アドバイザーとして審査に参加し、提案について建築の専門家として審査員にわかりやすく解説するのです。そうすることによって依頼者、運営者、利用者、そして住民の建築のリテラシーも向上すると思います。

 

また公共施設の管理・運営は設計意図を理解した方がより有効に施設を活用できます。運営・管理者だけではなく利用者も対象とした、設計者による施設の見学会を毎年定期的に行い、設計意図を伝えることが大切です。

 

民間企業の設計者選定は依頼者が候補設計者の事務所を訪問することを勧めます。事務所の雰囲気や労働環境などから建築家の人間性や仕事に対する姿勢、実行能力などを知ることができるからです。

なぜ、建築と農業、木造、
ワークプレイスなのか

2025/1/6

中崎 隆司

(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

前回の企画者だよりで、これから始まるだろうというものごとに興味があり、新しく始めているコーディネートは建築と農業、木造、ワークプレイスなどがテーマとお伝えしました。

 

なぜ、建築と農業、木造、ワークプレイスなのかをご説明します。人間は食べ、働き、休息します。農業は食べることに、ワークプレイスは働くことに関係があります。そして木造は主に木造住宅を対象にコーディネートを進めており、住宅は休息する場であるからです。

 

身体から建築と都市を考えたいのです。

 

今回は2023年から検討を始めた建築と農業について現在、考えていることをお伝えいたします。

 

農業は品種改良、土壌、水、気候がポイントのようであり、土壌と気候に注目して情報を収集しています。

 

2009年の農地法の改正によって農地を賃借する形式で企業が農業に参入できるようになり、以降の15年、19年、23年の改正などで条件の緩和が続いています。

 

それらの改正によって飲食業、建設業、デベロッパーなどの企業の農業への参入や農業の法人化が緩やかに増加していますが、参入するのも継続するのもまだ容易ではないようです。

 

さて人間が生きていくためには食物を入手しなければなりません。入手方法は自分で作物を育て、収穫する、あるいは代金を払って購入するなどです。

 

筆者の建築と農業をテーマとした検討は市街化区域を主な対象エリアとしています。市街化区域内にある農地である生産緑地で行われる農業は市民の生活に近いところにあり、主に野菜と果樹の栽培が行われています。農業に触れる機会・交流の場の提供なども行われています。

 

ただ農業経営の課題として就業者の高齢化、後継者の確保や育成、認知度の向上などがあるようです。農地・農業をどう継承させていくか、地産地消などで生産者と消費者をどうつながるのか、物流の課題もあります。

 

市街化区域内の専用庭がない共同住宅などで生活していると土と接する機会は少なくなります。ベランダでミニ菜園は可能ですが、使用した土は一般ゴミとしては廃棄できません。ただ一般ゴミとして廃棄できる人工土壌なども開発されており、ポリエステル繊維をリサイクルしたものやヤシの繊維を利用したものなどがあります。

 

農業にもAIやロボットなどの先端技術が導入されて始めており、水耕栽培や不耕起栽培などの農法も開発されています。

 

植物工場が鉄道の高架下などにもつくられており、農地以外でも農業が行われています。

 

つまり市街化区域内には既存の農地があり、そして農地ではない大小の「農地」が増えているのです。それは農地と他の用途の土地を利用した「農地」との境がなくなっていくという状況を生み出していくのではないかと考えています。新しい農業と新しい「農地」によって建築と都市が変化していくのです。

 

AIやロボットなどの先端技術の導入は農業に関われる人を広げていく可能性があります。

 

市街化地域内の農業、農地は環境保全や防災の面でも重要であり、その存続は地域の課題でもあります。ランドスケープ・デザインの視点から市街化地域内の農地と農業の価値を高めることもできるのではないでしょうか。

 

屋上菜園もつくられており、都市の景観を変えています。高さの異なるビルの屋上がスキップ・ガーデンのようになっていくかもしれません。

 

このように農業を取り巻く状況は大きく変化し始めています。

 

筆者の今年の取り組みは提案をしながら農業就業者や農業に参入した企業、農業に参入しようしている企業などとのつながりをつくっていくことです。

今回のテーマはワークプレイス

2025/2/3

中崎 隆司

(建築ジャーナリスト・生活環境プロデューサー)

今回のテーマはワークプレイスです。

 

まず「働く」を職業、時間から考えてみましょう。

 

厚生労働省編の職業分類によると大分類は15、中分類は99、小分類は440の職業に分類されています。社会には様々な職業があるのです。

 

時間から「働く」を見ると長時間労働の問題があり、また日本人は座っている時間が長いという調査もあります。

 

また時間を管理されると自分を無くすと言われています。つまり時間を管理されると個人の創造性は生まれないのです。

 

そして組織や集団にはリーダーとフォロワーの関係があります。

 

様々な職業があり、職業によって労働時間、座っている時間、そして就業時間の管理の度合いも多様なのです。

 

2019年度から「働き方改革関連法」が順次施行されています。時間外労働の上限が規制され、在宅や時短、フレックス勤務など柔軟性のある働き方を取り入れる動きがあります。

 

オフィスワークとテレワークを組み合わせた働き方であるハイブリッドワークや、複数の仕事に従事する働き方であるマルチワークなどの働き方もあります。

 

経営においては人的資本経営や人材育成投資などが注目され、経営者は人材を資本として捉え、その価値を活用するために、ワークプレイスを経費ではなく投資と位置づけつつあるようです。

 

ワークプレイスに関連する業種のメーカーや商社などがデザイン人材の雇用を増やし、家具や建材の製造や販売だけではなく、ワークプレイスのデザインの受注に力を入れ始めています。

 

デザイン系のまとめサイトなどを見ると、ワークプレイスとして紹介されている事例の多くは「事務所」のデザインです。似たようなテーストであり、商業施設のインテリアデザインを手がけてきた建築家やデザイナーによるデザインの事例が多いと感じています。

 

現在ワークプレイスについてどのような情報が提供され、拡散され、参照されているかが想像できるのではないでしょうか。

 

エッセンシャルワーカーのためのワークプレイスのデザインはどうなっているのでしょうか。

 

厳しい労働環境から教員のなり手不足が深刻になっているようですが、教職員のワークプレイスのデザインはどうなっているのでしょうか。

 

ワークプレイスをデザインするとは、どのような職業であるかを踏まえて、空間だけではなく、時間、そしてリーダーとフォロワーの関係のバランスを調整できるデザインを考えるということだと思います。

また創業期、成長期、成熟期など企業のライフサイクルの各ステージで求められるワークプレイスも異なります。

 

どのような職業、そして企業のどのような成長段階においても個人が尊重され、主体的に仕事に取り組むことができる環境が大切であり、そのような環境を実現するワークプレイスのデザインを考えることを目指したいと思っています。

 

そのデザインは作家性のデザインではなく、説得力のあるデザインです。

 

今月から建築を中心に、専門領域を超えた横断的なネットワークのチームを構築し、働く個人が尊重され、主体的に仕事に取り組むことができる環境のデザインの検討を始めます。

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